世の中、何とかなる。

 金がないなら、持っている人間を探せばいい。

 どうにだってなるのだ。それが成安の信条だった。

 

「いやー、きれいにしてんな」

 

 宮寺の家は、知り合いの中でもかなり上等の部類だった。

 やっぱり法律関係の仕事と言うのは儲かるのだろう。高級そうな革張りのソファー、重厚な本が並ぶ棚、おまけにベッドがふかふかときている。申し分のない環境だった。

 

「さすが弁護士」

「弁護士じゃないって。何度言えばわかるんだよ」

 

 そう言いながらも、彼はうれしそうだった。

 これだけの家に住みながら、多分来客等はほとんどないのだろう。見た目は悪くないのだが、宮寺と言うのはそういう男だった。

 

 ――あいつは弁護士になったらしい、そんな中学の同級生の噂話を信じて連絡を取ってみたが、これは思わぬ収穫だった。

 

「いやーほんと助かるわ」

「大変だよな、お母さんの手術なんて」

 

 分厚い封筒を、何の疑いもなく宮寺は差し出してくる。その重みを感じて、成安は笑みをこらえる。

 地味で冴えない男だ。見た目はそれほど悪くないのだが、どことなくおどおどしている。身長も低くないのに背を丸めていることが多いせいでそう見えるのかもしれない。立派な仕事についているのに、みっともないことこの上ない。

 御しやすい、簡単な男だった。

 

「……懐かしいよ、成安の事はよく覚えてる」

「そっかー」

 

 中学の頃の記憶などもはやほとんどない。たぶん宮寺はクラスの隅のほうにいる地味な男だったのだろう。ほとんどグラウンドで遊んでいた成安とは、ろくに話したこともないはずだった。

 

「その書類に一応名前とはんこだけをしてもらえるかな」

「なんだよ」

「いや一応、受領しましたって言う確認だから」

 

 差し出されたのは、細かい文字がびっしりと並んでいるA4の紙数枚だった。こんな読む気にはなれない。

 多分こいつは仕事では、よくこういうことをやっているのだろう。適当に安心させてやればいいかと思った。

 

「ここに書けばいいのか?」

「そう」

「はんこないけど」

「拇印でいいよ」

 

 わざわざ指を汚すのも嫌だったが、ここでこいつの気持ちを損ねることもないだろう。

 成安は差し出されるまま朱印に指をつけ、書類を完成させた。

 おめでたい男だなと思う。こんなもの作ったって何の役にも立つわけがない。いざとなったら暴力。それか金だ。世の中はそういう風にできている。

 

「部屋は好きなところ使ってくれていいから」

「悪いな」

 

 ちっとも悪いなどと思ってはいなかったが、成安は笑う。これはそこらのホテルより悪くないねぐらだ。これからの快適な生活を思うと胸が躍った。

 

「いいって、お互い様だろ」

 

 何がお互いなのかはよくわからなかったが、成安はうなずいた。

 

 ・

 

「いやー、便利かもしれないな、同性って」

「何がだよ」

「だって、セックスしなくてもいいじゃん」

「最低だな」

 

 なじみの店で酒を飲みながら、成安は笑った。こういうときは酒もおいしい。何もかも自分の思うとおりに進んでいるような気がする。

 この店で、成安は一時期働いていた。とっくに首にされているけれど、店長とは友情が続いていて、今も出入りをさせてもらっている。 

 

「それでヒモを卒業したつもりか」

 

 あきれたように店長は言う。彼は成安が女性客や、女性従業員とトラブルを起こしていたことを知っている。それでも何だかんだ、よくしてくれているお人好しな男だった。

 ――宮寺ほどではないけれど。

 

「そうそう」

 

 今まで成安は、女性の家を点々としてきた。自分で家を借りなくても、借りている人間の助けを得ればいいのだ。簡単なことだった。

 だが都会で一人暮らしをしている女性の部屋は、大抵狭い。どんな環境でも慣れる自信はあったが、部屋は広いに超したことはない。

 いちいち職場の愚痴を聞かされたり、泣かれたり、そういう面倒なことにもうんざりしていた。

 その点、宮寺の部屋は完璧だった。

 何しろ広い。掃除も行き届いている。とくに気に入っていたのは、スプリングの効いたベッドだった。空調の効いた部屋は快適で、おまけに待っているだけで高いワインまで出てくるときている。

 

「だって、やっぱ女とはどろどろになるじゃん」

 

 最初は喜んで成安の世話をしていた女たちは、そのうちに働けだの、結婚だの言い出す。

 たいていの女は真面目だ。

 何をするつもりもない成安を、そのままにはしておいてくれなかった。それに比べて、同性の家に転がり込むのは気軽だった。宮寺は、成安に説教をし始めたりはしないだろう。そういうことができる男じゃない。

 おどおどした、自信なさげな彼の様子を思い出す。

 

「それに比べて男は! 結婚しなくていいし」

「セックスはできるだろ」

「はぁ!?」

 

 あきれたように店長が言う。確かに、そういう趣味趣向の人間がいることは知っている。絡まれて襲われそうになったこともあるので、自分もそういう対象になりうることは理解していた。

 

「宮寺と? ないない」

 

 成安は笑い飛ばした。

 あの男が、セックスを目当てに成安を家に入れたとは到底思えなかった。

 変わったことなんてひとつもできないような平凡な男だ。たぶん料理のうまい処女のかわいい女の子と結婚することでも夢想しているのではないだろうか。アナルセックスなんて行為を理解できるかどうかさえ怪しい。

 宮寺は毎日時間通り規則正しく、八時に家を出て十九時に帰ってくる。同僚と酒を飲むようなこともないらしい。何が楽しくて生きているのか、成安にはまったくわからなかった。弁護士ではないらしいが、何とかとかいう、硬い仕事だ。

 別に何でもいい。利用さえできるなら、彼の人生などどうでもよかった。

 

「たぶんさ、寂しいんだよ。あの男」

 

 成安は笑った。今まで散々女性につけ込んできて、どうすればいいかはよく心得ている。

 仕事で頑張っている女性も、友だちのたくさんいる女性も、みんな弱い部分を突くところりと落ちた。成安は、そういう人の弱い部分を見つけるのが得意だった。

 

「つけ込むなよ」

「Win-Winだろ?」

 

 宮寺が自分の体を狙っているとは思えなかった。成安を招き入れたのは、たぶん話し相手が欲しいのだろう。老人みたいなものだ。

 もし仮に、体を狙っているとか……もしそういうことがあるとしても、こっちだって無理やりどうこうされるつもりはない。体力では負けることはないだろう。

 

「お前、いつか本当にバチがあたるぞ」

 

 あきれたように酒をつぎ足しながら、店長は言った。

 似たようなことは何度も言われた。報いが来るとか、刺されて死ぬぞとか。だが、今のところそんな危険な目にあったことはない。

 

「あんただって、バイトと浮気してたじゃん」

「大声を出すな!」

「バチなんてあるならさ、当たってみたいね、当たるもんなら」

 

 神なんていないし、わざわざ相手を刺し殺すような人間だってめったにいない。運が悪ければそういうこともあるのかもしれないが、まぁそのときはそのときだ。誰にだってありうることだろう。

 成安は笑って酒を飲み干す。店長も何だかんだといって、自分に害のない、成安の話を聞くのを楽しみにしていることを知っていた。彼だってすねに傷がある身だ。

 浮気に不倫、孤独を持て余してみんなさまよっている。それで世の中は意外となんとかなっていて、わりかし適当だ。

 結局、何とでもなるのだ。

 バチなんてない。成安はそう思って疑わなかった。

 

 

 

 

「あのさ、やっぱり色々入院に関する費用が嵩んでるんだけど」

「いくら必要なんだ?」

 

 さすがに更に金を貸してくれという話を切り出すのは、成安でも少し気まずかった。だが、宮寺はまるで明日の朝ご飯の話をするみたいに、自然な態度だった。

 

「二十万くらい……」

「わかった」

 

 あまりにあっけなくて、こいつは大富豪なんだろうかと考えてしまう。成安と同い年の二十六歳。いくら儲かるといっても、それほど莫大に稼いでいるわけではないだろう。

 

「なぁ、宮寺ん家って何してんの?」

 

 宮寺の数少ない趣味が、一人で高い酒を飲むことだった。小さいが専用のワインクーラーがあり、高そうな酒が冷やしてあった。

 宮寺は平気で一本を飲み干したけれど、成安もよくご相伴にあずかった。今日も、宮寺は高級そうな赤ワインを開けていた。

 

「家?」

「父親と母親」

「普通のサラリーマンと専業主婦だよ」

 

 実家がよほど太いのかと思ったが違うらしい。宮寺の出してくれるワインはうまいのだが、味が濃くてくらくらする。

 

「へぇ」

「成安のとこは?」

「さぁ……」

 

 答えたくなどなかった。父親も母親も、もう顔さえ覚えていない。いや、頭の隅に必死に追いやっていた。バチならあいつらに当たるべきだ。二度と会いたくない。

 そんなことより、宮寺だ。これだけ簡単に人に金を貸すようだと、以前にも他の男か、女に騙されたりはしなかったのだろうか。 

 

「宮寺って、彼女はいないんだよな?」

 

 家に転がり込むとき、色々と面倒なので一応確認はしていた。

 

「いないって」

 

 冗談だと思っているのか、宮寺は笑う。社会的な身分は申し分ないし、金もあって趣味も悪くない。よく見れば地味だが、顔立ちだって悪くなかった。猫背なのをやめれば背も高い。もう少し筋肉をつければ、より男らしい体つきになるだろう。それにしたって、痩せた男が好きな女だっていくらでもいる。

 

「じゃあ最後に付き合ったのは?」

「何だよ」

「教えろよ」

「……逃げられたよ」

 

 困ったように宮寺は答えた。まさか童貞だと思っていたわけではないけれど、大人びた言い方をするので少しだけ意外だった。

 

「なんで?」

「重いんだって」

「へぇ」

 

 最初のセックスの直後に、結婚でも申し出たのだろうか。宮寺は確かに、そういうことをしでかしそうな雰囲気がある。

 

「怖いって言われたよ」

「なんじゃそりゃ」

 

 宮寺のことをまさか怖いとは思えなかったので、成安は笑った。

 宮寺は、少しだけほっとしたように見えた。

 

「俺は普通に愛してるだけなんだけどな」

 

 宮寺の「愛してるだけ」という言葉が大げさに聞こえて、成安はまた笑った。重厚なワインが酔いを誘っているせいもあった。

 こんな、子供っぽい男があやつるその言葉は、芝居じみていて滑稽だった。一体女相手に、どんな恋愛をしてたのだかもわかりやしない。きっと独りよがりなセックスでもして振られたのだろう。

 

「この酒、うまいな」

「好きなだけ飲めよ」

 

 酒を飲んでいるときの宮寺は、アルコールのせいか少し態度が大きくなる。

 だけどまぁ、それくらいは許容してやろうかと思った。これから先、たっぷり搾り取るのはこちらの方なのだから。

 

 

 

「成安」

「う……」

 

 頭が重い。自分がどこにいるのか、すぐには思い出せなかった。居心地のいい部屋、スプリングの効いたベッド……。

 足が動かない。腕もだ。全身に鉛を流し込まれたかのようだった。

 成安は上半身を起こしかけて、だけどベッドの上に倒れ込む。手にも足にも、銀色の鎖が結びつけられていた。SMグッズみたいなものだろうか。だが、外すような金具は見当たらない。

 

「何だよ、これ……」

 

 体に力が入らない。酒を飲み過ぎたのだろうか。そうだ、ワインを飲んだ。あの赤い、冗談みたいに高そうなワイン。

 

「おはよう」

 

 少し背を丸めて、いつもと同じように宮寺は立っていた。

 

「何だよ、これ……」

 

 やはりこいつが犯人か。驚きながらも、成安は慌ててはいなかった。こいつなら、飛びかかれば勝てる。どうにか拘束を解きさえすれば。

 どんくさい男のことだ。言い含めればどうにでもなるはずだ。

 

「どうしたんだよ、宮寺」

「予定通りだよ」

 

 彼はそう言って、マグカップを口に運ぶ。匂いからするとコーヒーだ。

 成安はひどく空腹なことに気づいたけれど、どうにもできない。

 

「読んだだろ?」

「何の……」

「じゃあ、仕事行ってくるから」

「はぁ!?」

 

 宮寺はすでにスーツに着替えていた。確かに、時計を見るともう八時過ぎだ。規則正しく彼は毎日出勤していく。

 

「おい、どうすんだよ、これ……!」

「留守番、よろしくな」

 

 宮寺は当たり前のことみたいに言って、部屋を出て行ってしまった。

 成安は必死に部屋を見渡す。鎖はごく短く、ベッドから降りることさえできない。当然、食べ物のひとつもない。窓もない寝室だ。この高級なマンションでは、きっと大声を出しても周囲になんて届かない。

 急に嫌な汗が浮かんできた。

 

「宮寺……!」

 

 冗談じゃない。どっきりにしてはたちが悪すぎる。

 

「おい、宮寺……!  待てって」

 

 必死になって成安は呼んだ。だから、彼がひょいと顔を覗かせたとき、つい苛立つよりもほっとしてしまった。

 

「そうだ、忘れてた」

 

 だが、顔を出した宮寺は、ペットボトルを投げつけてきただけだった。

 

「いて」

 

 水が入っている五百ミリリットルのものだ。

 

「それ飲んで、それに用も足してよ」

「は……!?」

 

 あまりのことに、成安はうまく反応できない。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 今度こそ宮寺は出て行く。

 

「おい……!  待てって!」

 

 成安は必死に叫んだ。もう外聞なんて気にしていられなかった。だけど、部屋はしんと静まり帰ったままだった。助けてくれと言ってみても、誰かいないのかと叫んでも、何の反応もない。

 ベッドの上にはペットボトルが一本あるだけ。携帯なんてもちろん見当たらないし、テレビさえ付けられない。

 信じられなかった。

 

 

「ただいま」

 

 一体何時間が過ぎたのだろう。たぶん、八時間かそこらだろう。宮寺は規則正しく通勤し、退勤してくる。もう夜になったのだ。窓のない部屋では、何もわからなかったけれど。

 一日ベッドの上にいなければいけないだけで、人間はひどく消耗するのだと知った。

 ペットボトルは一本だと、どうしようもなかった。用を足すために使ってしまったら、もう水は飲めない。必死に尿意をこらえた。いっそベッド上にぶちまけてやろうかと思ったが、宮寺にそのまま放置されるかもしれない。

 結局、ペットボトルの中の水を飲み干して、そこに用を足した。

 自分が信じられないくらい、みじめだという気持ちになる。腹は減っていたし、眠いのにあまり眠れなかった。ただ時間が過ぎていくのが苦痛だった。

 

「お腹減った?」

 

 宮寺は朝出て行ったときと同じ、のんびりとした顔をしていた。まるで人を監禁している男には思えない。

 怒鳴ってやろうと思っていた。絶対に許さないと。だけど、成安の声はしわがれていた。

 

「俺の、携帯」

「あれは捨てた」

「は……?」

「契約書に書いてあっただろ?」

 

 宮寺はあくまで淡々としていた。平然と、スーツの上着を脱いでいく。

 成安をすぐに解放するような気はさらさらなさそうだった。

 

「ほら」

 

 そう言って、拇印を押させたあの紙をわざわざ持ってくる。細かい小さな黒い文字に頭が痛くなってくる。

 宮寺が指し示したところには確かに、携帯電話を放棄するというようなことが書かれていた。だが、こんなに細かい文字を読めるわけがない。条項は更に連なっている。どれだけのことが書いてあるのか。

 

「そんなの、無効だ」

「拇印押しただろ?」

 

 宮寺は小さな子供に含めるように言う。

 

「汗かいてるな、あとで、拭いてやる」

「……っ」

 

 宮寺はそう言って、成安の頬に触れた。ぞっとするが、成安は何とか紙を奪い取ろうとする。だが、宮寺はすぐに手に届かないテーブルの上に置いてしまう。

 

「コピーは事務所に保管してあるし、ちゃんと電子化もしてる」

「そんなもん……どうにだって……」

「借りた金の分は、ちゃんと従わないとな」

「何だよ……!」

「そう書いてあるんだよ」

 

 宮寺は人の良さそうな顔のままだった。まるで普段と同じ。それが空恐ろしい。

 異常なことをしているはずだ。とんでもないことを。なのに、平然としている。

 

「俺の仕事、やっぱりわかってないんだろ? 弁護士じゃない、行政書士だ」

「何が……」

「契約書を作るのは得意なんだよ」

 

 どっちだってどうせ似たようなものだろう。どんな書類を出されても成安にはわからない。契約を交わしたり、書類を作ったり、そんなこととは無縁の人生だった。

 そして、宮寺はただのカモのはずだったのだ。

 

「お前は、借りた金の分だけ俺の言うことを聞くって自分から契約したんだ。一万円で一日。どうだ、破格だろ?」

 

 とっさに成安は計算する。彼から最初に借りたのは十万円。二度目に借りたのは二十万円。三十日。

 一瞬ほっとしかけるけれど、全然短くはない。

 

「ちなみに、盗んだ腕時計の分も入れるから」

「な……」

 

 まさか気づかれているとは思わなかった。

 知っているなら、とがめ立てすればよかったものを。わざと泳がせていたのだろうか。

 人がいいはずの元同級生だった。こんな風に、人をおとしめることとは無縁そうな。

 

「なんで……こんなこと……」

「大人買いってあるだろ? 小さい頃買えなかったオモチャを、大人になってから一気に買う。大人の目からみたらちゃちなものでも、当時の自分は欲しかったんだって思うと、手に入れるのが快感になる」

「何、言って……」

 

 同級生だった頃、彼とろくに話したことはなかったはずだった。

 たぶん教室の隅にいるような、地味な生徒だったのだろう。成安は運動神経は良かったし、その頃から女性にはもてた。宮寺とは、住むところが全然違っていたはずだった。

 

「こんなもんかって思っても、やっぱり、昔欲しかったものは特別なんだ」

 

 宮寺はそう言って、少しだけ切なげに目を細めた。成安はどうしていいかわからない。どうにか言い含めたらいいのか。彼を好きな振りでもして懐柔する? でももしできなかったら? 金を工面するか、書類を破棄させるか……。

 

「安心してくれ、契約は守るから」

 

 監禁されて、安心できるわけがない。

 簡単な攻略先のはずだった。女性と寝るより簡単な、金ずるだと。この男ひとりくらい、どうにでもなるはずだった。

 でも今目の前にいる宮寺は得体が知れない。

 

「契約、って……」

「そうだ」

 

 そう言って宮寺は成安に近づいてくる。可動領域が極端に少ない状態では、うまく抵抗などできなかった。宮寺はそっと成安の顎を取り、唇を寄せた。

 本当にそっと触れるだけの、子供のようなキスだったので、成安はあっけに取られる。

 

「中学の頃の俺の、やりたいことリストひとつめ」

 

 そう言って、宮寺は嬉しそうに笑った。その後のリストにどんな内容が連なっているのか、もうとても、成安は考えたくはなかった。