「上、好きだよな」

「なに?」

「乗るの」

 天井が見える。もう見慣れてきた白い、自分だけの部屋の天井だ。

 そうして隼人は、連にのしかかられていた。

「何言ってんだよ」

 どういう経緯だっただろう。二人でのんびりごろごろしていて、ちょっとしたふざけあいのようになって…その結果、隼人は連に押し倒されていた。

「だって……そうだろ」

 初めてしたときも、この体位だった。二人きりになれる部屋を手に入れて、思う存分色々な体位を試せると思った。だけど結局は慣れた形になりがちで、やっぱり連は、自分が上になるのが好きみたいだった。

「……っ」

 後ろからする方が、入れるのがスムーズなんじゃないかと思ったけれど、連はあまり好まなかった。

 どちらかというと、隼人も顔を見ながらしたかったのでその方がいい。だけど、連の負担になっているんじゃないかというのは心配だった。

「……大丈夫か?」

 入れるのはやっぱり、楽じゃないんだと思う。ちゃんとほぐしてもどうしても狭い。隼人のものを飲み込んで、喘ぎ声を漏らしながらも連は眉根を寄せていた。苦しそうだ。でもやめてあげられない。隼人はジレンマに陥る。

「だって……顔見れるし」

 連は、自分の下腹部に手を当てた。

「……何?」

「ここに、隼人のが、入ってるんだって、すごいわかる」

 紅潮した顔で彼は笑った。

 確かに入っている。そういうことをしている。そんなことはもうとっくにわかっているはずだった。何回だってしている。だけど改めて言われると、じわじわと恥ずかしい。

「隼人としてるんだって」

 自分に言い聞かせるみたいに連は言う。

 この彼の身体の内側に今、自分のものが入っている。いくら親しいとはいっても他人だし、同性なのに。

 それは今更ながら、とても信じられないことみたいな気がした。そしてそれを口にしながら、連は笑って下腹部を手で撫でた。

「連」

 恥ずかしくてたまらない。好かれている、気がする。それもめちゃくちゃに。

「好きだよ」

 暖房がごうと音を立ててまた作動し始める。もう暑いくらいなのに、リモコンまでは手が届かない。

「好きだ。……お前は?」

 わかっている。でも、連の口から言わせたかった。

「なに?」

「だから、お前は……」

 急に内部が締め付けてくる。さっきまで苦しそうだった連は、笑いながら腰をゆっくりと前後に動かしてくる。

「ちょ……まて」

  何か機嫌を損ねることでもまた言ってしまったんだろうか。それくらい、連の動きは急だった。

「おい…っ」

 隼人の興奮を逃がさないようにするかのように、包み込むように熱くやわく刺激されて、もう限界ぎりぎりだった。 

 二回戦をするのにやぶさかではないけれど、これではあまりに早い気がする。さっき入れたばかりだ。もうちょっと粘りたい。

「いきそうだから…、ちょっと、待っ…」

 隼人は思わず連の腰を掴む。

「だめ」

 連は笑っていた。連の動きを止めようと腰を掴んだ指を一本一本、丁寧に外される。隼人にのしかかるように、身体を折り曲げてキスを落として、連はなおも笑った。

「思い知れよ」

 やっぱり機嫌を損ねたんだろうか。

「何回言わせんだよ……バカ」

 抵抗できないまま、強く締めつけられて隼人は達した。目の前がちかちかする。そしてその後に、どっと疲労感が襲ってくる。もう指一本、動かしたくないような気持ちだった。

 思い通りにいかされてしまって悔しい。連は勝ち誇ったように、笑みを浮かべていた。その顔がかわいいのもまたムカつく。

 だけど汗ばんだ顔で、満足そうにしている連を見ていると、だんだんどうでもよくなってきた。

「俺……幸せ者だな」

 汗ばんだ連の前髪をかきわける。連は少し困ったように表情を変えた。

「今頃わかった?」

 連の頬に手を滑らせる。はっきりと告白の言葉にしてもらわなくても、彼の気持ちはいくらでも見つけられる。

 勘違いだと誰に笑われてもいい。でも連は全身で、自分のことを好きだと言ってくれている気がする。

 そっと連の唇にキスをする。暖房のせいなのか、少し乾いている。

「……わかるだろ」

 小声でぽつりと、連が言う。

 じっと、隼人を見ている。それだけでまた胸がいっぱいになって、どうしていいかわからなくなる。自分には過ぎた幸せなんじゃないかと、不安にすら思えてくる。壊れ物にするように、連の頬を撫でる。

「知ってる」

 ちゃんと伝わってる、と言いたかった。

「は? なにそれ」

 だけど言葉足らずだったのか、連はぷいと背中を向けてしまう。

「え、いやごめん。悪い意味じゃなくて」

 ちゃんと伝えるのは難しい。むき出しの連の背中は寒そうだった。背後から抱き込むように、隼人は連に覆いかぶさる。

「思い知ったよ、ってこと」

 こちらを見ない連の耳に、そっと吹き込むように呟く。抱き込んだ連の身体が、わずかに震えた。よく見ると連の耳は、少し赤い気がする。

「遅いんだよ、バカ」

 暖房が音を立てている。汗が冷えていく気配に、隼人は抱え込んだ連の身体ごと、布団にくるまった。

「……好き」

 くぐもった声で連が小さく、だけどはっきりと呟くのが聞こえた。

 

 

 

・・・

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