おまけ
(本編後にお読みください)
「そういえば、蒔田さんの実家ってどこなんですか?」
ふと気になって豊は口にする。蒔田は何度も豊の実家に出入りしているが、その逆はなかった。
別に行きたいというわけではないけれど、何となく気になった。
「隣駅だけど」
あっさりと蒔田は言った。
「えっ?」
ちょうど蒔田の部屋にいるときだったので、豊は固まる。
隣駅といったら、いつ偶然に鉢合わせてもおかしくない。蒔田の母親については「先生」ということしか知らないけれど、たぶん蒔田に似た美人なのだろう。そんな気がする。
「近すぎないですか」
「たまたまだ」
それだったら一人暮らしをしなくてもよさそうなものだ。
「妹夫婦がかしましいんだよな」
蒔田は遠い目をして言う。
「妹さんいるんですか?」
そういえば、兄弟の有無さえ聞いたことがなかった。自分が一人っ子なので、それが当たり前だと思ってしまっていたかもしれない。
蒔田の妹というのはどんな女性だろう。
やっぱり、気の強い感じの美人なんだろうか。
「どうした?」
「いや、ちょっと会ってみたいです」
蒔田は怪訝そうに眉根を寄せた。
「お前、そういう趣味が……」
「違います」
どういう誤解なのかよくわからなかったが、とっさに豊は否定した。
ただ単に興味があるだけだ。好きな人の、いろんな面に。まだ未知なことが、きっとたくさんあるだろうから。
「……酒持ってくと喜ぶかもな」
蒔田はぽつりと言って、また更に遠い目をした。
「強いんですか?」
「母親が一番強いんだよ。俺なんか目じゃないから、もう……」
蒔田だって決して弱くはない。持って行くならどう考えても一升瓶だけでは足りないだろう。考えるだに、恐ろしかった。
・ ・ ・
第1章を書いたのはたぶん、3年前くらいでした。
去年、その部分を読み返したときに、豊が何をしてきたどういう人間なのか全然出てこないな(一応水泳の設定はあったので)、というのが心残りだったので、こうして一冊にまとめられて嬉しいです。
電子版のみの本にしようと思っていたのですが、いざ表紙も描いて頂いて本文もできると、やっぱり紙の本も作りたいという気持ちが強くなってきてしまいました。
秋のJ.GARDENだとちょっと遠いのと、そちらはそちらでちゃんと新刊を出したいので、8月19日のCOMITIAに参加して領布したいと思います。
今まで以上に少部数の本にする予定なので、何かしらちょっと手をかけられたらいいなと妄想しているところです。
本編でくっついている話の続編になると当て馬を出すのが定番だと思うのですが、この二人はもう穏やかに酒を飲み交わしててほしい……という思いで、特に出しませんでした。
これといった事件などは起こらない話ですが、たまにはこういう雰囲気もいいかなと思います。
当て馬ならぬトラウマの戸塚をもっと絡ませようかなとも思ったのですが、もういいかなと……。(彼は彼で何かしっぺ返しがあるでしょう、たぶん)
そんなわけで、酒と水のお話でした。
個人的にも日本酒は大好きです。笑
お読み頂きありがとうございました!